イベントレポート

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■松之山・坂口安吾まつり     2009年 5月9日(土)、10日(日)

松之山坂口安吾まつり写真 安吾の姉が嫁ぎ、また安吾もたびたび訪れた地、十日町市松之山に、安吾ファンが集まった。

 例年なら樹々の芽吹きの季節も,暖冬の今年は若葉眩しい頃、ゼンマイやコゴミ、ウルイなど山の幸あふれる時期となった。

 午後1時半、休養村センター2階で松之山安吾の会会長(安吾の甥)村山玄二郎さんによる開会の挨拶でまつりは始まった。新十日町市長関口芳史氏、安吾の会代表齋藤正行さんの祝辞、新潟市長、桐生市長のメッセージ披露と続く。安吾が文学ファンだけではなく、地域振興や文化として位置づけられていることをあらためて感じる。

 基調講演として、安吾の長男、坂口綱男氏(写真家・エッセイスト)の映像とおはなしで綴る「安吾のいる風景」は、松之山と安吾をつなぐさまざまな写真が紹介され、今ここにみる風景に安吾が佇んでいたことを彷彿させる。

 安吾の会鈴木良一さんのコーディネイトによるシンポジウムは、松之山、新潟、新津、桐生の安吾顕彰団体代表に、手塚眞さん(映画「白痴」監督)、カール・ベンクスさん(第2回安吾賞特別賞受賞者)が加わって、各地での活動や、安吾をキーワードに地域文化の再発見まで、意見を交わす。会場の若い女性から「若い安吾ファンが参加しやすいイベントについて」質問があったが、個人や仲間で行動することの多い新世代への取組みは、顕彰団体の長年の課題だけに、緊急な問題として突きつけられた気がした。

 第2部、旧村山邸、大棟山美術博物館の庭に会場を移して、女優千賀ゆう子さんによる『木々の精、谷の精』の朗読。数百年の歴史をもつ建物と樹木に囲まれた空間を、朗読の声とギター(高橋一志さん)の音がさまよい、あたかも精霊を招き入れるかのよう。アカゲラとウグイスが二人に呼応して高い声で啼く。

 暑いくらいの日和の松之山が、日の入りに近づくにつれ冷たい空気に変わってきたなと思う頃、物語の世界で葛子はその身を谷底の瀞に浮かべていた。不思議な体験であった。

 翌日の「上川手歌舞伎」は、松之山の人々が昔から楽しみにしている芝居である。このたび特別に上演して頂いた。歌舞伎の出し物を近郷の役者が演じる。入場料はとらないが、役者への祝儀を「纏頭(はな)」と呼び、金額を10倍にして貼り出されるのが習わしだとか。1000円が、“金1万両也”となるから景気がいい。松之山の人々は待ちわびた雪解けの頃、おなじみの役者がおなじみの筋立てで演じるこの芝居をいかに楽しんでいたか、安吾の義兄村山眞雄氏の「雪野の芝居」(昭和14年3月13〜15日新潟新聞掲載)を読むとその様子が手にとるようでおもしろい。

 松之山の見どころは、唯一の信号機がある大棟山美術博物館前の交差点がメインストリートで、ほかに安吾碑、温泉街とスキー場、美人林くらいかと思っていたら、広々と池を囲んだ牧場や、棚田にひく豊富な水の流れ、長野へ続く残雪をたたえた山並みと、この2日間でいろいろな松之山を知ることができた。松之山安吾まつりに訪れた人、延べ210名。安吾が歩いた松之山がまだ目にすることができ、心惹かれた風景がそこにある、と気づかされた。

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