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作品紹介
 同人誌発表3作めにして、奇才・牧野信一の絶讃をかちえた記念すべき短篇。安吾文学といえばファルス、ファルスといえば「風博士」、そう言い切ってしまえるほどの、一方の代表作である。

 何よりもまず、落語にも似た軽妙洒脱な語り口が楽しい。冒頭だけでも朗読してみれば、かなりの率で笑いがとれるだろう。

 しかもこれは、単なる笑劇では終わらない。マッドサイエンティストものSFとしても読めるし、基本構造はミステリー仕立てだ。当時のトンデモ本の話題もとりこまれている。

 風博士・蛸博士とは何者か、何を象徴しているのか……。探偵小説ファンや安吾マニアの探求心をそそってやまない仕掛けに満ちている。そうして最後には、すべての推理をカラカラと笑い捨てるように、風博士は風となって消滅してしまうのである。なんとも心憎い。

 かくして謎は永遠に解けないわけだが、ここでも一つ、「語り手=狂人」説を提示しておこう。風博士は「僕」の頭の中にしか存在しない。風のように瞬間移動する博士を「人間」と信じて怪しまず、博士の妻と博士の若いフィアンセが同時存在する矛盾に気づかない「僕」の謎も、狂人であるとすれば、すべて解ける。

 語る人、語られる人、いずれが狂人か、いずれが怪物か、混沌錯綜する狂気の世界。芥川の「河童」や、夢野久作の諸作と類縁の、夢とうつつの境界が壊れた底なし沼が口をあける。

 旋風の軌跡がきらめいて幾筋も残る、風博士の部屋の描写は美しい。あるいは、これは正統なファンタジー小説なのかもしれない。
 
(七北数人)
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