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「二十七歳」

 自伝的連作のなかで、この「二十七歳」と「三十歳」こそが眼目であった、と安吾は書く。美人作家矢田津世子との苦しい恋の顛末。

 よく安吾の片思いだったといわれ、プラトニック・ラブの典型のようにいわれる。でも、それは真実を言い当てていない。

 確かに矢田も安吾に惚れていた。ふたりの間には性的なときめきもあった。それは本作を読めば確かに感じられる。小説だから事実とは限らないなどと言うなかれ。42歳の安吾は15年前の自分の気持ちを、底の底まで正確につかみとろうとしている。この、苦しいだけの恋をする自分の心とは何ものか。思い出すだけでさえ、まだ苦しい。それでも書かずにいられない。安吾の自伝はどれも、心の自伝なのだ。ひとかけらでも嘘がまじれば、すべての文字は、意味を失ってしまう。

「私は果して書きうるのか」自問しながら、気持ちは逡巡を重ね、ストーリーは核心を外れてのたくりまわる。
 矢田への思いの形を明らかにするために、かつて関係をもった女たちを回想する。気性が激しく純粋で刹那的な十七の娘(坂本睦子)。肉体の喜びにのみ情熱を燃やす戦争未亡人。無感動で不感症だった娼婦あがりの女。全裸になって体操するのが大好きな可愛い娼婦。

 誰もかれもが寂しい影をまとっている。寂しさの量に比例して、彼女たちはいたわりの心も深い。孤独が伝染し、共振する。
 そうして肝腎の矢田津世子は、寂しさの核に澱む「影」でしかない。

 この小説は作者の低徊のおかげで、脇役たちの姿が非常に印象深い。中原中也とのファルスそのもののような交遊。加藤英倫と訪ねたスパイ疑惑のヘルマンは巨大なカラッポの塔でひとり、神戸の町に探照燈を向ける。矢田との仲をとりもとうとしてくれた河田誠一の親切。先に挙げた女たちの孤独。安吾はいとおしむように、彼らの心に寄り添う。そうすることで、矢田の「影」はいっそう濃くなっていく。

 
(七北数人)
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