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「木枯の酒倉から」

 坂口安吾の処女作にして最も奇ッ怪な作品。「風博士」がファルスの代表作なら、これはグロテスク・ファルスとでも名づけたいものだ。

 木枯の吹き荒れる武蔵野で、「僕」が怪物のような狂人に出逢うところから物語は始まる。語り手は、すぐにその狂人「俺」に移るが、語りの中には、自分の首を股の間にさしこんで這い回るヨガ行者の長い語りも入ってきて、誰が誰やら混沌としてくる。

 ヨガ行者はまるで風博士のように、あちこちへその分身を現すことができるし、裸の娘を現出させることもできる。「わしは幻術は好まぬよ」と呟く狂人「俺」もまた、「悪魔風な法式で」戸のすきまをくぐり抜けたりできるのだ。現実と夢の境目はどこにもない。すべては酒が見せる幻覚かもしれず、もともと「俺」は「いやに僕によく似た」男だった。

 語り口調は茶目っ気たっぷりだ。「あぱぱい」「あべべい」「う、ぶるぶる」といったナンセンス語の連発。わあっ! と大げさに叫ぶ。すべては現実離れしているが、酒を呑むと苦痛ばかりで「神経の細い線が、一本づつ浮き出てくるのを」感じたりするところなど、妙にリアリティがある。

 終わりの方に、木枯の酒倉がいつのまにか熱帯の森に変わってしまうシーンがある。果てのない緑は「あれはみんな魂の生(ナ)るような、葉の厚ぽつたい、あんな樹々」であり、「渡るものは風ばかりで、それでも気のせいか、何か遠くさんざめく物声にもききとれた」。

 遠い南国へのあこがれと風――。安吾が折にふれて夢みた風景が早くもここに現れていた。ファルスの形式で書かれた「虚無」の正体は、このカラッポの明るさだ。現実には存在しないイメージの国。悲鳴と茨と狂気から生み出された幸福な幻が、なんだかもの悲しい。

 
(七北数人)
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