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「木々の精、谷の精」

 新潟松之山をほうふつとさせる木暮村を、一人訪れた青年修吉のひと夏の思い出。さりげない随想風の描写に油断していると、不意に、足もとに穴があく。随所に溶け込んだ美しい毒のにおいが、心地よい麻酔に誘う。

 短い中に何人もの女性が登場するが、修吉は一人一人の魅力の質を審美的に眺めるばかりで、深入りしない。この時期の安吾諸作の主人公とは少し毛色が違う。文体にも珍しく装飾が凝らされ、初期に捨てたはずの“詩”を呼び戻そうとしているかのようだ。

 この“詩”的世界の中心にいるのは常に葛子(カツラコ)で、他は葛子を対照するためだけに存在する。弥勒像にも比せられる葛子は「高野聖」の魔性さながら世界に君臨し、宿命的に、人を物狂おしい気持ちに誘い込む。下男は彼女を喜ばせたい一心で片足を失った。

 修吉の幻想の中で、葛子は病少年の腹部からしみでる膿をごくごくのみこみ、聖女の笑みを浮かべる。後年の傑作「夜長姫と耳男」の原風景がここにある。

「葛子を救ひだすには、殺すか、死なすかすることだ。今のうちに、こはしてしまふことである」

 よく知られているとおり、本作のヒロイン葛子のモデルは、安吾がかわいがっていた松之山の姪、村山喜久である。彼女が満20歳で池に身を投げた数カ月後に、本作は執筆された。鎮魂の思いは強くあっただろうが、痛ましさや悲しみは不思議なほどに、ない。 美しいままに死んだ姪のイメージを、一篇の詩として結晶させておきたい。綺羅のように、ガラスのように――。そんな願いが幾重にも織り込まれている。

 なお、松之山を舞台にした安吾作品には「黒谷村」「麓」「村のひと騒ぎ」「逃げたい心」「禅僧」など数多くあり、本作の数年後にも同じ“木暮村”を舞台にした小説の書きさし原稿があった(『坂口安吾論集V』参照)。フォークナーのヨクナパトーファや宮沢賢治のイーハトーヴのように、黒谷村&木暮村サーガを作り上げようとしていたのかもしれない。

 
(七北数人)
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