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「花妖」

「堕落論」「白痴」で流行作家になった安吾が初めて挑んだ新聞連載小説。連載は新聞社の都合で打ち切られ、未完に終わった。岡本太郎の挿し絵の問題だの理由はさまざま取り沙汰されたが、そもそも小説が読者にウケていれば何も問題視されなかったはずだ。
 新聞連載であることなどまるで考慮されていない実験的な作で、文章はひどく荒削り。「白痴」とは正反対に、センテンスが短い。体言止めも多く舌足らずなところもある。それが時に、熱病患者のあえぎのようにも感じられ、心理解剖の苦闘の跡が文章全体ににじんでいる。

 登場人物たちの心の奥深くまで立ち入り、彼らの心に染まって思い屈し、感情を溜めに溜めて、そこからどうしてもあふれてくる言葉だけを書きとめようとしたのだろう。
 文章同様、人物の動きや心理も唐突に移り変わる。性格や生き方が各人別個で相いれないから、次々と衝突が起こる。憎しみが湧く。そうして変化(ヘンゲ)する。人も物語も。
 穴ボコに隠棲しながらも無償の行為に生きたいと願う修一と、逢った途端に「オヂサマのオメカケにして」と迫る芳枝は、風のように自由だ。そんな2人を聖者の猿真似と冷たく突き放す雪子は、火。深層で父修一に恋しながら、憎悪に凝り固まり復讐の鬼と化す。

 雪子の変幻ぶりこそが「花妖」なのだろう。花の精。雪子の名は、かつて未完に終わった長篇「麓」のヒロインと同じ。「麓」もやはり愛憎入り乱れる群像劇で、殺人も起こりうる不穏な気配がたちこめていた。その雪子が去ったあとには花粉の舞い落ちるイメージがあった。そこに登場した猟犬エアデルが「花妖」にも出てくるのは偶然ではないだろう。
 すさみきった心で、復讐だけを胸に秘めて、しかし、雪子は二重三重の人生を夢みる。みずから火を消して、純情なものに染まってゆきそうな未来が見える。
 安吾が常に希求していた長篇は、虚無の深淵に臨んで生まれる「美しい物語」だった。

(付記)戦後の漢字制限で、新聞等では「ちょう笑」「じょう舌」「ば倒」のような交ぜ書き表記が多用された。当時は小説でさえ機械的に変換されていたらしく、「贖罪」が「とく罪」と読み違えられた箇所もある。最新版全集では直筆原稿の写しとみられる手書き稿を翻刻したので、それ以前の版とは読んだ感じがかなり違う。安吾の怠慢表記だと誤解されてる出口サン、ぜひ一度最新版で読んでみてください。きっと印象が変わります。

 
(七北数人)
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