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「恋をしに行く」

 4カ月前に発表された「女体」の続篇だが、文体も雰囲気も「女体」とはかなり違う。

 このあざといタイトルからは、安吾が大好きだったラクロの「危険な関係」が思い出される。復讐心を秘めて恋愛ゲームに興じる退廃貴族たちの物語。

 まさにそのように、計略をいだいて恋を狩りに行く谷村だが、その策略とみえたものは、複雑怪奇な自分の心の真率な告白、という不思議な迷路に向かう。

 谷村は信子を聖女とあがめ、我が身を捨てるイノチガケの恋にたどり着こうと懸命だ。彼の計略とは要するに自己暗示であり、本当のところ恋のカケヒキすらもない。ただハダカになる勝負があるだけ。ハダカの心とハダカの体。

 発表当時は激しい性描写が話題になり、安吾は一躍「情痴作家」呼ばわりされたが、ふたりの激情の奔流はまぶしいほどに煌めいて、淫靡さは全くない。精神か肉体か、という二元論も会話の中に混じるが、そんな次元はあっさり飛び超えてしまう。

「女体」の素子には矢田津世子のイメージが投影されていることを安吾自身が明かしているので、本作のヒロイン信子も、理想化された矢田ではないかとよくいわれる。けれども、安吾の生涯を追いつつ本作を読むと、信子には坂本睦子の影像が重なって映る。

「二十七歳」などで「十七の娘」と記される睦子は、安吾、中也、小林秀雄、河上徹太郎、青山二郎、大岡昇平らと浮き名を流した女傑だが、狂気をはらむほど純真で壊れやすくもあった。自分を投げ捨てるような睦子の愛情は、寂しさの同病人に無限の慰藉を与えた。

 矢田との苦しい恋のさなか、安吾が睦子にある種の癒しを求めたように、素子との疑念だらけの夫婦関係に疲れた谷村は、信子に心の窓をあけ放ってほしいと願う。

 信子には夜長姫や「木々の精、谷の精」の葛子らに通ずるファム・ファタールの面影もある。男を惑わす残酷で純真な悪女。そのくせ本当には何も求めてやしない。いかに結び合っても最後には孤独の穴へ還っていく、そういう性(サガ)の女。彼女との恋が精神だけだろうと、肉体だけだろうと、吹き抜ける風のような寂しさは纏わりついて離れない。

 

(七北数人)
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