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「犯人」

 晩年の1953年1月『群像』に発表された異色短篇。推理小説と純文学とを明確に区別してきた安吾の作品としては珍しく、両方の要素をあわせもつ。発表誌のせいもあって推理モノに分類されたことはないが、殺人事件の発生から始まり、容疑者らしき人物が徐々にしぼられていく構成は、完全に推理小説のスタイルにのっとっている。
 論理的に犯人当ても可能である。真相を知ってから読み返すと、推理に必要な条件はすべて細心に提示されていたことがわかる。容疑者はごくわずかなので、犯人はそれほど意外でもない。

 ただし、事件の全体像を正しくつかむのは難しい。狂気の兆候を見せる人間ばかり登場する中で、誰が誰に愛欲や憎悪をいだいているのか、一人一人の深層心理まですべて推理できれば謎は解けるが……。この謎解きはすでに純文学の領域だろう。

 物語の前半は、神経症を病む医師の視点で話が進む。谷崎潤一郎の「柳湯の事件」などをほうふつとさせる「信頼できない語り手」の手法だ。実際には何が起こったか、起こらなかったか、殺したのはあるいは自分ではないのか、そんな不安が妄想に拍車をかける。思えば「風博士」も「信頼できない語り手」のミステリーとみることもできた。

 後半では一転、犯人の自白が始まる。ネタは明かせないが、真相が知れれば知れるほど人間心理の謎は深まるようだ。

 全裸の女性が二人――どちらも安吾にしてはなまめかしく、エキセントリックな愛欲に素肌をさらしている。よどんだ狂気の中にスックと立つ聖娼婦のイメージも浮かぶ。その立ち姿からは松本清張の有名な短篇(これも題名は言えない)も思い浮かぶ。もちろん清張のほうがアトで、この時点では清張はまだ芥川賞受賞の直前だった。

 また、美しい平戸先生には「風と光と二十の私と」の高貴な女先生の面影がある。安吾のはるかな思慕は死ぬまで続いていたのかと想像すると、胸の奥が少し疼く。

 

(七北数人)
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