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「紫大納言」

「桜の森の満開の下」や「夜長姫と耳男」の先触れをなす説話体の幻想短篇。

「閑山」に続いて発表されたが、ファルスの要素は少ない。ストーリー展開も表現も激しく移り変わり、思いもよらない方へはみだしていく。そのはみだしぶりが第一の魅力で、安吾作品に特徴的な“火”のイメージが初めて現れた、転機を画す作品といえる。

 月の姫の大事な笛を隠し、侍女の天女をゲスな軽口で口説き落とそうとする紫大納言は、初め、ファルスの主人公としか見えない。
 それが、燈火に映る天女の美しさに打ち震えた瞬間から、別人になり、世界は一変する。

 文章も詩情をたたえて切なく息切れし、「つめたい」という言葉が何度も使われる。月も、天女の素肌も、冴えざえとつめたく、その人の声もつめたい。大納言は生まれて初めて「胸をさす痛みのやうな、つめたく、ちいさな、怖れ」を感じる。

 このつめたさは、月光そのものに宿る聖性と一体のもので、俗物を峻拒する。聖なる絶対美に向かって、俗物大納言は熱風になる。官能の炎が燃えたぎり奔走する。黒い企みも心にきざす。このあたりのテンションの高さは、安吾作品中、随一かもしれない。

 大事な笛を奪った盗賊一味のリンチにあい、股間に押しつけられたホダの火で熱狂は頂点を迎え、そして急速にしぼんでいく。ドラマツルギーからいえば、これは破綻だ。ヒロインは話の中途で置きざりのまま、主人公は何一つ達成できない。

「あなたの嘆きを見ることが、天地の死滅を見るよりも悲しい」と言い、「劫火に焼かれて死ぬことも、いとひませぬ」と誓った、その言葉どおりに罰を受けているかのようだ。

 突如出現して大納言をわらうキノコ童子は、焼き潰された“官能”の残像か、あるいはドッペルゲンガーか。ファルスの唐突な導入は、悲惨な末期を笑いにすりかえる。

 結果、すべてが――悔いや苦痛や悲しみやらが、ひとくくりに昇華される。序破急のアクロバティックな手際は安吾独特で、他の作家には真似できないものだろう。

 

(七北数人)
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