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「オモチャ箱」

 牧野信一の自死に至る壮絶な生きざまを描いた短篇。

 高すぎるプライドに押しつぶされ、貧乏と頽廃の果て、生身の自分を否定して「夢」を現実世界にはびこらせていく晩年の牧野。仮名を用いてはいるが、牧野の代表作の題名はそのまま記し、その姿も牧野そのままだ。残酷な書き方だと感じる人も多いだろう。
 実際、この作品は同時代から厳しい批判にさらされた。青年期に牧野グループの一員で安吾と非常に仲のよかった中島健蔵までが、本作は牧野をおとしめるために「いじの悪い動機」で書かれている、と非難した。中島までが!

 牧野は安吾を文壇に押し上げた、いわば恩人であり、若手サロンのボスであった。それを敗残者扱いするような暴露の仕方はひどい、恩知らずだ、という論法だろう。
 しかし、断言してもよい。そんな程度の低い創作動機を、安吾は一度も、毛筋ほども持ったことはなかった。ここには、悪意の切れっ端もない。

 牧野文学は初め、葛西善蔵ばりの破滅型私小説で出発した。葛西善蔵は安吾も少年時代に愛読し、尊敬していた作家である。作風は変遷しても牧野文学の根はそこにあり、「地べたに密着した鬼の目」をもつ理想の高い作家であったと安吾は牧野を讃えてもいる。

 完璧なまでに落伍者となり果てたかつての恩人を間近に見つめ、安吾は歯がゆくてならなかった。言うなれば、自らも夢に見た落伍者。そこまで追いつめられるほかない、文学の鬼の本然の姿。それを、牧野は、自分自身で生きてこのように書くべきだった。安吾はそう叫びながら、彼の「自伝」を代筆しているかのようだ。

 自分自身にもからみつく文学のデモンを動きださせたい。その一念で、これは書かれている。だから人名は仮称でも、必然的に、書かれていることのすべては実際にあったことと信じてよい。文学の魔に憑かれた作家同士の、それが魂の斬り結び方だから。

 

(七北数人)
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