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「日月様」

 東大病院神経科を退院直後の埋もれた佳品。狂人を描いた身辺雑記風の小説だが、なにげない日常風景が底知れぬ魔窟にすり変わっていく、一種の異界遍歴譚としても読める。

 この時期、「精神病覚え書」「わが精神の周囲」など、小説ともエッセイとも分類しがたい病間録が続いたが、本作もその一連であるかのように始まる。真実味を演出する心憎い仕掛けだ。

 話は少しずつ奇妙なずれを生じはじめる。知らない盛り場の、さらにその露路ふかく分け入って行く過程で、異界への穴がそっと開く。遍歴譚の定型だが、その語り口はさりげなく、読者も気づかぬうちに穴へ引きずり込まれていく。

 次々と落とし穴がうがたれるように、思いがけない話が降りかかる。女装趣味、一念の凝った鬼女、刺青、皮はぎ、カニバリズム……。身辺雑記のはずが猟奇譚となり、話はもうどこまで闇へ落ちていくのかわからない。

 ちょっと変わった面白い奴という程度だった知り合いの顔が、どんでん返しの連続のうちに、鬼気迫るものに変わっていく。神経を逆撫でするような戦慄が走る。

 パンパンも旅館の女将も、出てくる人間がみな、場所柄に合わない「普通さ」をもっているところも気味が悪い。疑りだすと何もかもが狂って見えてくる。

 描かれる狂人の姿は、「精神病覚え書」で安吾が観察したとおり。

「自らの動物性と最も闘い、あるいは闘い破れた者が精神病者であるかも知れないが、自らに課する戒律と他人に対する尊敬を持つものが、精神病者の一特質であることは忘るべきではない」

 そのとおりなのだが、その厳しい「戒律」と絶対的な「尊敬」こそが恐ろしい。肉体の苦痛を超越した狂人から「日月(ジツゲツ)様」と崇められたら――ヘタをすれば二度と帰ってこれないかもしれない。

 
(七北数人)
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