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「イノチガケ」

 安吾初の歴史小説。前篇ではキリシタン殉教の数々とその伝説化が描かれ、後篇では60余年後、伝説に憧れて殉教を追体験しに来るシローテという憑かれ者に焦点が当たる。

 物語性を排した叙事的なスタイルは、エッセイのようにも見える。安吾は活劇の妙味を生かした歴史小説も得意だったから、書こうと思えばもっとドラマティックな物語にも仕立てられたはずだ。あえてそうしなかった裏には、実は巨大なたくらみがあった。

 それこそ小説でしか書けないもの――。安吾がめざしたのはおそらく、歴史という“生き物”を描くことだった。

 シローテは主役ではない。誰も、主人公はいない。細心の注意を払って共感や怒りや悲しみを排除したのは、誰かにくみすれば、歴史の全体像がぼやけてしまうからだ。

 後年の長篇「火」の「作者の言葉」で、安吾は戦争そのものに人間の本性があるといい、「国家の名に於てなされる陰謀は、個人の陰謀よりも人間色が濃厚なのである」と説いた。本作の視点も同様に、世界の構造すべてを包含するように巨視的だ。

 信長、秀吉、家康それぞれのキリシタン観に差異はあっても、大筋は別の流れで動く。貿易や防衛、天下統治など、その時々の歴史の流れが複雑にからみあって、異国や異教徒といかに対処するかが決まっていく。

 歴史の犠牲になるキリシタンの側にも様々な思惑がある。各会派の派閥争い。崇高さの演出としての奇蹟捏造。あるいは精神病による奇蹟幻視。荘厳な死がもたらす集団熱狂。殺す側も頭をひねって、荘厳封じのブザマな刑「穴つるし」を案出する。純粋な殉教志願者のシローテにもカケヒキとしての大仰な演技があった。

 安吾は、当時の人々が何を見、聞き、感じたか、思いを凝らして人々の心に辿り着こうとする。妖術使いとされた宣教師や奇蹟伝説などに割かれた文章が多いのも、神秘が人の心を揺るがすからだ。本物の歴史とは、大衆ひとりひとりの心の集積である。史学書からは見えてこない歴史の真実を、安吾は繊細にすくいとっている。

 
(七北数人)
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