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「黒谷村」

 新潟松之山を舞台にした作品群の第1作。

 凡太青年が旧友龍然の住持する山奥の寺を訪ねたひと夏の出来事で、ストーリー性は薄い。初めて読んだ時には「軟体動物に似た皮膚を持つ肉体美の女」由良のイメージがなまめかしく、情欲になやむ青年たちの物語、という印象をもっていた。

 読み返してみると、思いのほか、死の臭いが強いことに驚かされる。野合に誘う娘たちもいる「猥褻な村」の話なのに、読めば読むほど、性的なイメージは薄れていく。

 泳ぎ疲れた龍然が岩に寝転がると、その姿はまるで、干からびて岩にこびりついたカエルの残骸のようだと凡太は思う。人も心も風景と化して、凡太の心境としては死骸にも肉感がない。

 龍然の自殺した友達は勿論、龍然も由良も、女衒でさえ、どこか死の翳を纏っている。それぞれの性格はあまり描かれず、ただ絶望しかけていることだけが伝わってくる。凡太の倦怠と放浪癖もまた、同じ絶望で共鳴し合うようだ。

 盆踊りと酒で転げまわる夜の熱狂にも、念仏に魂が遊離していく感覚にも、死への不安が忍び寄る。文章のはしばしに、離れたところから自分を見る自分がいる。

 山寺にいながら、海原を西へ西へ、斜陽に向かって歩き続ける人の幻が現れるのも、たぶん唐突ではないのだろう。死の国との往還。自死をめざす究極の行、補陀落渡海を思わせる不気味なイメージ。その行者の顔は、あるいは自分自身なのかもしれない。

 牧野信一は「風博士」に続いて本作を絶讃、「貴く、面白く、汲めども尽きぬ芳ばしい詩魂に満ち溢れてゐる」と評した。同人誌仲間の間では島崎藤村も褒めたらしいと噂されたが、これについては又聞きの回想文しか情報はなく、デマだった可能性もある。いずれにせよ、突飛なファルスから一転、静謐な不安の文学で勝負に出た新人安吾の戦略はまんまと図に当たり、才気走って眩しいほどだ。

 
(七北数人)
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