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「古都」

 長篇「吹雪物語」を書きあぐねて、碁会に明け暮れる京都での日々を綴った楽しい短篇。上京直後に発表したエッセイ「囲碁修業」がもとになっている。

「吹雪物語」後の安吾文学には、説話体、歴史ものなど新生面を開く短篇が次々と生まれたが、これもその一つ。いわゆる私小説だが、「私(僕)」はあまり前面に出てこない。「吹雪物語」不評のショックも尾をひいていたのか、自分の内面をえぐるような表現は極力避けている。三人称小説に生身の作者がちょろちょろ入り込んでいる感じだ。

 そこから面白い効果が生まれた。

 別な道を模索する、その触手を張りめぐらすような観察眼によって、登場人物たちが個性ゆたかに生き生きと動きだす。この手法にも“新しい”可能性が潜んでいることを、安吾は書きながら確かに嗅ぎ当てていただろう。

 だから、何から何まで「吹雪物語」と正反対にできている。

 内面vs外面、執拗vs淡泊、暗澹vsほのぼの……。

 肩の力が抜けて、マイナス要素の強いエピソードもみな、どこかユーモラスであたたかい。

 露路のどんづまりの長屋風景は「白痴」冒頭によく似ている。けれども「白痴」のような冷徹さは感じられない。逆に、ダメダメな人間たちがいとおしく思えてくる。そういう目で作者が見ているからだ。

 私小説的な方面で、こうしたあたたかさが持ち味の短篇を書いたことは、安吾にとって大きな意味があった。大げさな身ぶりを伴わずとも、世界のすべてを肯定するファルスの力が表現できる。

 安吾は続篇「孤独閑談」を書き、そこからさらに、ゆるく長く、雑草が這い伸びるように続いていく人間讃歌の長篇を書こうとしていた。検閲など諸事情で構想はついえたが、2作で終わってむしろ正解だったかもしれない。このタイプの作品は、短篇でこそ安吾の美質が光るように思う。

 
(七北数人)
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