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「水鳥亭」

 戦後、安吾はファルスの要素を含む小説を数多く書いたが、その大部分は戦前の突き抜けたホラ話のたぐいとは異質のものだった。暗くどろどろした人間関係を描く「重喜劇」とでも呼ぶべきものが多い。
 本作もその典型で、人間の卑屈さ、いやらしさ、あくどさ、チンケなプライド……マイナス面ばかりを前面に出し、膿みを搾るように登場人物たちを追い込んでいく。

 主人公の亮作は敵役の野口からも、女房や娘からも徹底的に罵倒されるダメ親父。しかしファルスの主人公たちと違って、亮作も野口と同様、詭弁が達者で小ずるい。

 ラスト近く、安吾の好きな怪力女・金時の登場から、ファルス色が強くなる。その効果で、小さな幸せが無上のそれのようにも感じられ、万事よし、という雰囲気にもなる。

 雑誌発表時の小説「水鳥亭由来」はここで終わっていたが、3年半後、単行本収録の際に、安吾は原稿用紙8枚におよぶ後日譚を付け足した。

 土地持ち、家持ちのちっぽけな幸せを肯定して終わりではダメだ。それまでに延々と繰り広げられた陰湿な心理戦が無意味になってしまう、と思ったのだろう。心理戦の底には、金銭欲や所有欲への激しい怨念があった。見栄から出た言葉にせよ、本来無一物、「日本文化私観」的な「無きに如かざる精神」というものへの憧れが、確かにあった。
 その思いを宣言するとき、「亮作の弱々しい目に妖光がたまっていた。神がかりの度がひどくなっていくようであった」と描写されるあたりに、この作品の骨がある。

 戦争のドサクサで持たざる者から持てる者へ「出世」してしまった小人は、その幸せを「誇り」にすり替えて、心に決して消えない欲を巣食わせてしまった。そんな亮作には、二度と「妖光」が宿ることはない。後日譚はそれを冷徹にあばく。

 必要不可欠のラスト。ではあるが、金時と暮らす平凡なハッピーエンドも、やっぱり捨て難い。

 なお、「水鳥」は「さんずい」に「酉(とり)」で「酒」になる洒落だと作中で明かしているが、小田原時代の酒友ガランドーこと山内直孝の雅号がまさに「酉水」であった。

 
(七北数人)
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