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「火」

 約3000枚、単行本5冊の大著になる予定だったが、第1章1冊で途絶えた長篇。

 読むたびに、なんて健康な小説か、と思う。執筆時の安吾はアドルム中毒で心身ともにボロボロの状態だった。下書きノートの冒頭には、幻視幻聴に襲われ「一切が分解しさうな怖れ」を感じながら執筆に向かう決意が綴られていた。
 しかし文章は整然として、2カ月の入院治療をはさんで書かれたものとは信じられない。

 最初に登場する青年玄吉は、頭は弱いが邪心を一切もたない無垢の豪傑で、戦うと決めたらくだらないことにでも命をかける。どんなスポーツでも図抜けた能力を発揮する。そして底抜けの大食らい。
 ヒーロー・マンガの典型的なキャラだ。往年の「ハリスの旋風(かぜ)」から「1・2の三四郎」「ドラゴンボール」「犬夜叉」「ONE PIECE」「NARUTO」まで、主人公は皆、ちょっとおバカだが、こと勝負となるとイノチガケ、限界を知らずやり遂げてしまう。

 玄吉もマンガのヒーローよろしく、賭けたからには肉4sのスキヤキと酒3升を平らげる。
『火 第一部』として刊行された第1章は1928年から32年まで。戦時体制に移っていくキナ臭い時代だが、歴史とは別のパラレルワールドなので「1Q28年」とでも書くべきか。

 政界・財界・宗教界の大ボスたちに、神がかりの隠者、被差別民の娼婦、もと共産党闘士の麗人、フィクサーとなる新聞記者など、有象無象入り交じっての大活劇が展開する。どこへ向かうのかは作者にもわからない。各人それぞれの思惑で自由勝手に動きまわり、動いた分だけ、社会も動く。個々人の動きが人間界をかたちづくり、戦争という大きな生き物がうごきだす。

 陰謀うずまく戦争政治の中で、玄吉のような無垢な豪傑を暴れさせたい。そういう願望があって、冒頭のスキヤキの賭けに長いページが割かれたのだろう。残念ながら、玄吉の次の活躍は書かれずに終わった。

 なお、第2章の下書きも百数十枚残っているが、これは第1章の「下書き」につながるもので、発表されたヴァージョンとは食い違う点も多い。いわば、もう1つのパラレルワールドである。第2章は第1章の下書きとともに新全集第15巻に収録されている。

 
(七北数人)
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