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「逃げたい心」

「黒谷村」に始まる新潟松之山を舞台にした放浪譚のひとつ。

 戦後刊行された初期作品集の表題にも採られたが、なんとも奇態な小説である。安吾作品に変人が登場するのは常のこととはいえ、これは皆、飛び抜けてヘンだ。ふだん朦朧としていて突然泣きだす蒲原氏もヘンだが、夫人も息子も娘も変わっている。

 小説の構成はさらにヘンで、壊れている、と言ってもいい。

 短い中に多くの登場人物が現れ、どう関わり合うかと思っていると、全く関わり合わず、後半になると、そこにいるはずの家族たちの名前すら省かれる。ストーリーは動きだした時点で思わぬ方向へねじ曲がり、個々人の意志も目的も感情もすべて置き去りに、フラフラと幽明の境をさまよう感じだ。

 安吾自身、これは小説というよりも「人性の唄であり童話である」といい、「人間に生と死のある限り、郷愁と童話が不滅の生命をつづけるであらう」(「桜枝町その他」)と述べている。

 ストーリーをむりやり要約すれば、自殺未遂の息子を迎えに家族で長野へ出かけ、そこから松之山まで足をのばして温泉でくつろぐ話、とでもなろうか。この要約だけでも十分奇妙だが、話の中心の蒲原氏はストーリーから常にハズれて、初めから貧乏徳利さがしに夢中だ。ひとり山野をさまよい、自然と交歓し、ひなびた愛欲の妄想と孤絶の憂いにどっぷり浸かって過ごす。

 家族を愛しているけれど、うちへ帰りたくない、と蒲原氏は涙ぐむ。怖ろしく、切なく、「温いものの悲しさには、とてもとても、やりきれない」と言う。タイトルの「逃げたい心」が全篇に覆いかぶさり、心はもはやどこにも落ち着くことはできない。

 宵闇の田舎道。遠い灯が、涙にかすむ。

 壊れた小説のテーマは、翌年からとりかかる長篇「吹雪物語」に真っ直ぐつながっていく。

 
   
(七北数人)
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