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「金銭無情」

 戦後の混乱期、金儲けに執着する人間たちの猥雑なファルス。滑稽譚ではあるが、妙にリアルで、皮肉もきいている。安吾文学の新しい芽が出てきた感じだ。

 全体は3部に分かれており、それぞれ版元も異なる雑誌に、断続的に連載された。そのせいか、作品世界のイメージは微妙に移り変わる。

 第1部「金銭無情」は、「花妖」の新聞連載が中止になった翌月に発表された。その気分を引きずって少し暗い。それでも筆法はファルスで、奇怪な人物が次々と現れる。

 飲み屋の主人になった哲学者・最上清人は、その名に反して精神性のカケラもない冷徹な守銭奴。妻の富子は生来の浮気性。これに、人生を劇場のように面白がる哲学くずれの闇屋・倉田博文や、切れ者コック落合天童らが絡み、すったもんだの化かし合いの末、誰もがふりだしに戻った感じで幕となる。当初は続篇の予定はなかった可能性も考えられる。

 第2部の「失恋難」は、最も軽快なテンポで、最も奇抜な展開をみせる。

 天童は新興宗教の天妙教から最も妖怪じみたオバサンを自店に雇い、これが大当たり。悪辣非道の清人もこれを真似て天妙教から人を雇うが、無能の絶世美女や怪力の大女、酔うと局所のイレズミを御開帳に及ぶ娘らに翻弄されて、やることなすこと裏目に出る。主筋は「こぶとり爺さん」的に、清人が痛い目をみるほど溜飲がさがる構図になっている。

 第3部「夜の王様」では、第2部執筆後にGHQの指令で料飲店休業となった世相を反映、清人は逆に闇営業で大儲けしている。しかしファルスの主人公は徹底して悲惨な目にあうのが宿命だ。清人もまんまと詐欺師の罠に引っかかり、主人公らしさをまっとうする。

 一方、天童は妖怪オバサンを神様に仕立てて霊感商法に転じ、ますます盛況の勢い。こっちは落ちぶれそうにないのが不気味だ。当時話題になった璽光尊のもじりだが、安吾は邪教に関心が深く、2年後の「現代忍術伝」では組織立った巨悪として登場させている。

 
(七北数人)  
 
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