坂口安吾デジタルミュージアム
  坂口安吾デジタルミュージアム HOME  
introductionPhoto introduction
坂口安吾ってどんな人?
あなたにおすすめの作品
 
ArchivesPhoto Archives
作品データベース
年譜
その他のデータ
NiigataPhoto # Niigata
# 新潟安吾観光MAP
# 安吾賞 松之山情報
# 新潟でのイベント
 
安吾コミュニティ
コラム ブログ
作品紹介 遺品紹介
安吾リンク集
 
 
作品紹介
 
「女剣士」

 最晩年の1954年に初めて書かれた剣豪小説。半ばファルス、半ば伝奇ロマンで、実在した剣豪・楳本法神とその高弟・須田房吉から続く、法神流の末裔たちを描く。

 子供の頃には立川文庫に熱中し、宮本武蔵はじめ剣豪大好きだった安吾だが、剣士を主役に据えた伝奇や時代小説はそれまで書いていなかった。1950年の「落語・教祖列伝」シリーズにも、仙人みたいな剣の達人が登場するが、こちらは完全にファルス仕立てで、童話のようでもあった。いわば宿年の剣豪ロマンへの挑戦である。

 武者修行の物語は、大昔からスポ根もの・ヒーローものの原型のひとつ。戦争中、安吾が一番に褒めた中島敦の諸作の中にも、弓の名手が仙人のもとで修行し“不射の射”を体得する「名人伝」があった。中国由来なら芥川の「杜子春」もそうだし、太宰の「ロマネスク」も案外ベタなヒーロー修行譚だった。1952年に安吾が強く芥川賞に推した五味康祐の「喪神」も同様の趣向をとりいれている。

 しかし本作はなんとも斬新で、あまたある武者修行小説のどれにも似ていない。何よりまず、作中、敗戦を経ていることが語られるので、意外にも現代小説なのだ。法神流の第六代ともなれば登場人物はみな架空、誰にも怒られる心配はないだろうということで、ホラ話は野放図に発展していく。

 予定調和は一切なし。読者の予想や物語の定石を裏切りまくり、主要人物であろうとストーリーから置き去りにされる。ちょっとでも気を抜けば殺されかねない激しい修行の毎日。そこに、各人の愛欲やプライドや求道精神が複雑にからまりあって、彼らの死にもの狂いのあがきが生々しく鮮烈に浮かび上がる。

 歌子と父が二人きりで山中にこもり修行する場面が圧巻だ。もう一歩で仙人という境地だった父が、娘への愛欲から久米の仙人よろしく真っ逆様に墜落する。無垢すぎる歌子のなんの邪心もない殺意も強烈だが、自然のままの素直な近親姦がやけに悩ましい。やせ細るほどのオスの欲情が、無垢な歌子のエロスを引き立てている。

 本作の3カ月後には、法神流第二代の須田房吉が江戸で暗殺されるまでを描いた短篇「花咲ける石」も発表しているが、こちらは史実に沿った歴史小説である。

 
(七北数人)  
 
Copyright (c) 2005-(財)新潟市芸術文化振興財団. All rights reserved. このサイトについて 個人情報保護方針 ご利用規約 お問い合せ