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「篠笹の陰の顔」

 亡友長島萃(アツム)を描いた作品はいくつもあるが、その完成形といえる短篇。

 長島本人よりも彼の妹に焦点をあてているせいか、おぞましい狂死の場面も、無垢で静謐なものにくるみこまれる感じがある。

 長島の死から6年たっているので、さすがにもう追悼の気分はない。1940年1月、中村地平・真杉静枝夫妻宅を訪れ、そこで思いがけず長島の妹の消息を聞く。あどけない雰囲気は昔と変わらず、やはり実年齢よりはるかに若く見えるらしい。本作の半分はそこから構想された。本文で長島を仮名の高木にしているのも、出版社に勤務する彼女のプライバシーを考慮してのことだろう。

 同月、安吾は小田原に引っ越し、キリシタン殉教の歴史に惹き込まれて次々と本を読みあさっていた。構想の残り半分がここで固まる。

 細川ガラシャら「血を主に捧げた婦人達」の心に迫ろうとして迫りきれないでいた安吾の脳裡で、殉教女性と長島の妹の笑顔が重なる。そして彼女と初対面した時の「庭の篠笹を思ひだし、さやさやと幽かにゆれる葉陰に透明な幼い笑ひを視凝めてゐるのであつた」と続く。

 圧巻のイメージ――。眩惑され、なぜか厳粛な気分に浸される。

「長島の死」や「暗い青春」で描かれた長島の刹那的な生きざまは本作でも語られるが、省略されたエピソードも多い。そのかわり、妹との対話から明かされる自殺未遂前後の行状などは、これまでになく詳細に回想される。

「助平は私たちの親ゆづりの宿命ですから仕方がありません」

 彼女はそう言い放って笑うが、「激しい神経のこまかな波が笑ひの裏にきらめいてゐた。激情のあげくどうにも仕方がない笑ひであつた」。夜長姫や濃姫の無心さとも少し違う、何と名状しがたい大切なものをイノチガケで守りとおす、ゆるぎない魂の高潔さが少女の笑顔を永遠にする。

 タイトルが作品の本質にかかわることが多い安吾作品の例にもれず、篠笹の陰にゆれる「透明な幼い笑ひ」に、畏怖すべき女性像が結晶化されている。

 
(七北数人)  
 
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