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「桂馬の幻想」

 死の2カ月前に発表された奇妙な味の短篇。

 弱冠二十歳の天才棋士・木戸が対局中にプイと立って、二時間近くも散歩に出てしまう、という始まり方も謎めいているが、散歩先の茶店で出あう娘の顔に桂馬の幻を見いだすところから、病的な気配も漂いはじめる。

 その啓示に従って次の一手を四五桂とする、これは悪手だったが結果的に勝ちを呼びこむことになった。「野良の匂いのプンプンするような色の黒い田舎娘」の顔に「四五桂」を見たのは、はたして天啓だったのか、「対局中の異常心理」にすぎないのか。

 これも対局中に釣りなどしてサボっていた不良観戦記者・野村とともに謎の解明にいどむ展開はミステリー・タッチで、最後までどこへ着地するのかわからない面白さがある。

「対局中のとぎすまされた神経は、あるいは神秘を見ることができたかも知れない」と野村は思う。

 木戸は将棋の盤面を読むように、娘の店の内部を思いおこす。病人の父親がいたはずなのに、何度戸をたたいても返事ひとつなかった不思議。不穏な事件の予感――。

 それから数カ月後、木戸は本格的に行方をくらます。ミステリー仕立てなので詳細は秘しておくが、半ば予想どおりに展開しつつ、仔細にみれば、そこには誰にも予想できないことばかり起こっている。

「ほら。ほら。ほら。ほらしょウ」唸り声をあげて怪力をくりだす女教祖の恐ろしさ。

「四五桂」の謎を、野村は「極端に無智な闘魂」のあらわれと見るが、木戸はおそらく、もっと違うものを見ていた。そこには対局中とは別種の「異常心理」が働いていて、そこへ向かわざるをえない木戸の心奥が、当事者でない者にはひたすらグロテスクで、怖い。

 晩年の安吾作品特有の「リアル・ファルス」の趣もあり、「禅僧」など戦前のマゾヒスティックな作品群や、呉清源がハマった璽光様の一件も思い起こさせる。

 奇怪な世界でありながら、同年発表の「女剣士」で吹かせた爽快・清涼の気も、ここにはいっぱいに漲っている。

 
(七北数人)  
 
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