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「ピエロ伝道者」

『青い馬』創刊号に寄せられた堂々たるマニフェスト。この前に小説と翻訳と編集後記を一本ずつ発表していたが、まとまった形のエッセイとしては、これが処女作となる。

 ヨーロッパでは、1909年の「未来派宣言」以来、「ダダ宣言」「シュールレアリスム宣言」など文学・芸術集団のマニフェストが、世界中に大きな話題を提供していた。

『青い馬』同人たちも皆、新しい文学運動に非常な関心を寄せ、アポリネールやエリュアールらの作品がたてつづけに翻訳され、第2号ではツァラの「ダダ宣言」も翻訳された。

 そんな中、同誌創刊号の巻末に置かれた「ピエロ伝道者」は、さしずめ「ファルス党宣言」のおもむきがあった。(ここではまだ「ファース」と書いている)

 安吾24歳。名もない若造だ。社会経験も少ない。なのに、この示唆に富む文字列の美しさはどうだ。いやいや、あぶない。どう褒めても「悪趣味な讃辞」と安吾に言われてしまいそうで、怖い。

「わづかな衒学をふりかざして、『笑ふ君達を省みよ』と言ひ給ふな」

「すべからく『大人』にならうとする心を忘れ給へ」と安吾は言う。

 そこには、当時流行した「主義者」たちの声高なアジテーションへの反発も感じられる。

 笑いを笑いのままに受け止める、とは簡単なようで、その本質はとてつもなく深く、難しい。読むたびに、我が身をふりかえらざるをえなくなる。24歳の若造に、また、たしなめられる。さかしら心の浅ましさが指弾される。

 チャップリンのスラップスティックな短篇時代を高く評価する、その斬新な批評眼から当時の文壇を見渡せば、井伏鱒二や中村正常のナンセンス・コントは、まだファルスとは呼べないしろものだった。

 屋根の上で竹竿をふりまわす狂人を微笑ましく見つめる安吾の視線は、ずっと後年に登場するフェリーニ映画をほうふつとさせる。そのセンスはきわめて現代的かつ革新的であった。

 
(七北数人)  
 
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