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「牛」

 著者晩年の、現代の学生を主人公とする青春小説の1篇。

「目立たない人」「握った手」などと同様、ファルス色が強い。ごく日常的なキャンパスライフかと思って読んでいると、異次元の穴がぽっかり開いている、そんな感じの短篇群。本作はその第1作となる。

 40代後半に入った安吾が、なぜ学生を書こうと思ったのか。単純に考えれば、学生はあくせく働く必要がないから、生き馬の目を抜く戦後風俗と無縁に過ごせる。バカの付く純朴というものがそもそも、学生ナラデハなのかもしれない。

 スポーツしか取り柄がなく、成績わるく鈍感で「牛」などとアダ名される主人公の光也は、バカ正直が災いして、次々とヒドイ目に遭う。まさにファルスの主人公にふさわしい。

 出てくるキャラクターは皆、どこかイビツでユーモラスなのだが、やはり光也の独自性が際立っている。強姦の濡れぎぬを着せられても、牢屋より過酷な拝殿に閉じこめられても、光也はいつも平然として、与えられた場所で逆に楽しみをさえ見つけてしまう。

 山上の拝殿に閉じこめられた光也のもとへ、若い女が闇夜を突いて二度も忍んで来るところから、物語は思いがけない方向へ展開する。

 光也の潔白を信じるという女の顔は見えない。手さえ出せない格子の牢獄へ、女はママゴトのようにキャラメルを1粒ずつ差し入れてくれる。女の冷たい指の感触だけを掌に感じて、光也はこの時、見えない女と情を交わし合ったように感じたようだ。

 クラヤミだからこそのエロティシズム。府中や宇治の神社で代々続く「くらやみ祭り」も、大昔は「夜這い祭り」とも呼ばれ、カガイや歌垣のような乱婚の祭事だったといわれる。何も見えない、触覚だけが頼りのクラヤミが、原始の衝動をかきたてるのだろう。

 物語はサラリと終わってしまうが、このあと彼女とどうなっていくのか、興味は尽きない。白昼の凄絶な姿を見せられてもなお、クラヤミのエロスを知ってしまったからには……。たぶん、ここで「ファルス」は終わり、別の何かが動きだすのだ。

 なお、本作は日本文芸家協会の選ぶ1953年前期『創作代表選集』に収録された。

 
(七北数人)  
 
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