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「決闘」

 戦後2年め、流行作家として最も精力的に書きまくった時期の、アクチュアルで熱い短篇。なぜか単行本収録から漏れてしまったため、没後の全集刊行まで20年余も埋もれていた不幸な作品である。

 特攻隊出撃が決まった若者たちの心理の綾を、ひとりひとりの心に乗りうつって深く静かに見つめている。苦悩や混乱、激情、あるいは性欲や嫉妬、自棄、ケチな侠気、さまざまに移り変わる心のうちは、突拍子もない表現になるほど真実味が増す。

「絶望とは決して人間の心に棲むものではない。狂気の上にあるものであり、人間に非ざる心に在るものであつた」

 いちばん内省的で安吾自身に近いようだった京二郎が、考察の果てに至る連続強姦はラスコーリニコフさながらで、現実の監禁事件の犯人たちと同じ身勝手なセリフを吐く。

「堕落論」の主張に従って、真に自ら欲することを為したなら、みんなが欲望に忠実にうごいたなら、殺戮や乱交の無政府状態になると想像してブルブル首を振る人もいるだろう。しかし、たぶん、そうはならない。最も多く殺す者は、最も多くの者から殺される。首を振る心も「生きたい」欲望の一端だ。

 それでなくても、殺人が本当に快感なのか。バカ騒ぎが本当に楽しいことか。強姦できれば満足か。死の前にすべきことは……。特攻兵の彼らはそれぞれ独自のやり方で考える。

 世に男らしいといわれる例のほとんどは、利己的なヒロイズムにすぎない。何事も自分が中心。「決闘」などやらかす幼稚さがあり、人を人と思わぬ者ほど男らしい。決して敵に屈しない人気政治家は、売春を必要とのたまう。安吾は全部わかって本作を書いている。

 処女のトキ子や戦争未亡人たちも、一時は強姦を男らしい行為と錯覚するが、ラストでは毅然として男どもに君臨する。「決闘」して誰も死なない「男らしさ」が笑いの対象になる。

 安吾は、どの登場人物も必要以上に高くも低くも描かなかった。特攻兵も戦争未亡人も処女も、心から欲していたのは理不尽なものへの抵抗だったのではないか──。

「堕落論」の小説化というなら「白痴」よりも本作のほうが、より当てはまるだろう。

 
(七北数人)  
 
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