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「フシギな女」

  中華料亭で起こった4人惨殺事件についてのエッセイ。初めの4分の1は犯人逮捕前に発表され、翌月、犯人逮捕後に「フシギな女(続)」として追加発表された。

 現実の事件なのに、まるで犯人当て推理小説のようだ。ごテイネイにも問題篇・解答篇に分けた形に出来上がっている。現実のイタズラ。その特異な成り立ちがまず面白い。

 直接オノをふるったのは料亭で働く太田成子だが、逮捕前は共犯者の存在がおぼろげだった。ただし注意深い読者には、新聞記事だけで共犯者が予想できた。冒頭4分の1、安吾の皮肉な書きぶりから、言外に真犯人を暗示していることが読みとれる。フシギな女のフシギな行動、証言者のパラドキシカルな手記、さまざまな矛盾を解く万能のカギは一つしかない。ここまでが問題篇。

 安吾の暗示はハッキリしているのに、当時のジャーナリストたちは文章のウラを読むことができなかったらしい。

 いざ解答篇を読むと、一分の隙もない、素晴らしい論理明晰な証明に驚かされる。

 問題篇での共犯者暗示はつかめていても、ここまで考えた引っかけ文だったとは、ちょっと想像を超えていた。

 真犯人のしぼりこみ方だけではない。探偵小説の閉鎖空間と現実世界の無限空間との違いや、どんな最先端科学を使おうとも、さまざまな条件やバイアスにさらされて絶対確実な信用性など存在しないこと、そういった限界を一つ一つ、安吾は丁寧に説明していく。

 推理小説の書き方、読み方、解き方の講座みたいだ。と思って読んでいると、これは小説全般にも当てはまり、ジャーナリズム、精神病理学、人間科学の基本まで全部ズルズルくっついてくるから面白い。

 かつて「日本文化私観」で、驚くほど論理的・数学的な精密さで固定観念を打ち破ってみせた、あの証明法の冴えがここにもある。

 
(七北数人)  
 
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