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「ジロリの女」

 「ゴロー三船とマゴコロの手記」という副題の付いた、風変わりな中篇。

 人をジロリと見る癖のあるゴロー三船が、同類のジロリ型の女たちに入れあげる話。といえばファルスとしか見えないが、中身は案外グロテスクで、少しあくどい要素も多い。

 ジロリ型の女は、美人だがキリキリした「敏腕家」で「知的な自信や骨っぽさ」がある。サディスティックな女将の金龍、病院長の未亡人で打算家の衣子、その娘の蓮っ葉な美代子、そしてゴローの経営する新聞社に入ってきた才媛ヤス子。

 彼女たちをモノにするため、ゴローは幇間よろしく口八丁の小細工を弄して奮闘する。お金が第一、口だけの才覚で世渡りするゴローの人物像は「金銭無情」からの流れか。

 情けないようでいて、したたか。女に溺れるようでいて、冷徹。この手のキャラクターは、安吾の長篇によく狂言まわしの役割をもって現れるが、ここでは珍しく主役で、しかも一人称「私」で書かれている。そのため、つい主人公に同化して読まれがちだが、そうして読むと受け入れがたい小説になるかもしれない。

 いかにして相手の肉体を、また精神をモノにするか、虚々実々のカケヒキが展開される様は、安吾が大好きだったラクロの「危険な関係」を思わせる。

 だから、自分のたくらみとは別個に、意中の女が“なりゆきで”“向こうから”あるいは“ヤケになって”なびいてきても、ゴローは全く喜べない。

「私は自分の工夫によって、こゝまで運んできたかったのだ」

 恋愛ゲームにあけくれる、その状況自体はファルスなのだが、矢田津世子の面影をしのばせたヤス子との恋愛が始まると、しだいにゲームではなくなっていく。

 ファルスから命がけの恋へ。この構図は「紫大納言」と同じだ。ゴローのやけっぱちな口説きの中に「紫大納言」そっくりのフレーズが紛れ込み、切なさがにじむ。大納言は最後まで天女に嫌われたが、ヤス子は「エンゼンとほゝえんで」くれる。

「ジロリの女」は掻き消えて、「理想の女」が立ち現れる。あくどさもミジメさも切なさもみんな一つにくるみこんで、ささくれ立った気持ちを優しく慰撫してくれるような——。

 
(七北数人)  
 
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