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「ジロリの女」

 1940年10月1日発行の『若草』に発表された、全集未収録小説。『昭和文学研究』第68集(2014年3月20日発行、笠間書院)に、小林真二氏によって紹介された。

 原稿用紙わずか5枚程度。「紫大納言」発表の翌年で、しかもこのタイトルだが、説話モノではなく、若者の切ない恋の顛末を描いた現代小説である。

 解題で小林氏が指摘しているとおり、「売文を業とする若者があつた」という書き出しは「伊勢物語」の「むかし、男ありけり」をほうふつとさせるし、中間部に手紙が挟まる構成などにも、もじりがある。

 そして何より、ストーリーは安吾が「文学のふるさと」で紹介した「伊勢物語」の、女が鬼に食われて終わる段を翻案したものともとれる(これも小林氏の指摘するところだが、私も全く同様の感想をもった)。それも見事に換骨奪胎して。タイトルが違えば、そうとは気づかなかったろうほどに。

 なにしろ鬼は出てこないし、したがって女が食われる事態も起こりえないわけだが、恋に狂う若者の目つきを、おぼこ娘が「誰にもまして怖しく邪悪な光につゝまれてゐる」と看破するところに、この世の「鬼」が顕現する。

 掌篇「傲慢な目」と同一の、さりげないようでいて深い、単純にみえて限りなく複雑な、恋心の諸相が「ジロリ」の一瞥にこもっている。

 秘めた恋の熱病にも似た苦しさ。その内心身もだえするほどの思いを、娘は理性ではなくおそらくは肉体的な直感で感じとり、「鬼にもまして怖しい眼付」と言い放つのだ。無邪気な娘の罪深さよ!

 オチがまた切ないのだが、それは言わないでおこう。

 発表から実に73年半。まだこんな愛らしい小説が隠れていたのか、と驚かされた。

 本来なら単行本収録を待って紹介するのが順序だろうが、この先もまた埋もれてしまうようなことがあれば、あまりに惜しい。どんな形でもよいので、早い時期に、広く読者のもとに届けられんことを強く望む。

 
(七北数人)  
 
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