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「退歩主義者」

 東大病院神経科を退院後、「日月様」とともに最初に発表した短篇。

 まだ療養中でもあり「なるべく疲れずに」書けるファルス作品を、と考えて書きはじめたようだが、なかなか一筋縄ではいかない奇ッ怪な作品になっている。

 退歩主義とはもちろん、当時さかんだった進歩主義を皮肉ったものだ。大体において、進歩という言葉自体がうさんくさい。安吾が再三排撃してきた権力者たちの上からの掛け声にも似ている。ならば、あえて逆方向へ突き進んだらどうなるか。

 復員兵の馬吉は、大食らいが災いして実の親に捨てられてから、退歩主義に目覚める。運命には逆らっても仕方がない。無抵抗主義。なりゆきまかせ。進んで最下層へ堕ち、ヘラヘラ笑って雇い主の言うとおり、なんでもこなせば生きていける。そのハズだったのに、どこへ行っても食らい過ぎてクビになってしまう。

「馬吉は地下道に住むことを怖れるような男ではなかった」

 なんでもできる覚悟はあっても、食うことを省いては生きられない。だから泥棒もする。

 いかにもファルスの主人公にふさわしい規格外の人間は、世間からつまはじきにされて、とことんひどい目にあうのが常道だ。

 しかし、その時代——いや、たぶん現代でも、どこにも容れられない人間は、生きていくことができない。世間はいつも、ルールに沿わない人間には恐ろしく冷たい。

 誰であろうとも自然に犯罪へと導かれていく、定まった行程がある。悲しいことに、馬吉はそれをなぞることしかできないのだ。やるかやられるか。

「日月様」同様、終盤には人間の心に巣食うどす黒いものが噴き出てくる。それは特別なものではない、命のカタマリとでも言うべきものだ。

 ただ生きていたいだけなのに、どうして彼はこんなところへ落ち込んでしまったのだろう。どこにも行けない、暗い穴ぼこ。

 この結末にはファルスのかけらもない。あるのはただ、性格の悲喜劇、か。

 読み終わって、茫然とするほかない。人間世界に対しての、茫然。心が、寒くなる。

 
(七北数人)  
 
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