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「現代忍術伝」

 エンターテインメント精神に徹した痛快無比の連載中篇。

「退歩主義者」と同じく、これも療養のため「なるべく疲れずに、仕事をすることを考えた」作品系列だが、単なるファルスとは違う、異常な傑作に仕上がっている。

 登場人物がみな、ひと癖もふた癖もあるしたたか者ばかり。特にアプレゲールの最先端を突っ走る若者たちは、クールでハイセンスで残忍だ。物語のワクなど軽々と踏み越え、他人のシカバネも踏み越えて、邪教のボスともヤクザの親分とも対等に渡り合う。

 余計な道徳観は要らない。悪漢同士の「スティング」ばりのコン・ゲームが、ぞくぞくするほど面白い。策略の複雑さ周到さ、諜報戦の速力勝負、豪傑同士の胆力くらべ、それらすべて、後の「信長」につながる重要な要素だ。

 天才学生たちで作った詐欺会社のボス天草次郎のモデルは、「光クラブ」の東大生社長山崎晃嗣だろう。アプレ犯罪の走りとして注目され、数多くの小説やドラマに脚色されたが、安吾の書いた本作がおそらく最も早い。なにしろ、山崎が会社設立から1年で自殺して果てるまでの、その中間時点で書き始められている。第1回が出版社にわたった頃、山崎逮捕のニュースがとびこみ、まるで光クラブのなりゆきを予見したように物語は進む。

 マニ教のモデルは、双葉山や呉清源らが熱心に信仰した璽光尊だろうが、その内部描写は恐ろしく凄惨で、ほとんど現代のオウム真理教や尼崎事件の奴隷支配をほうふつとさせる。知的でもなく度胸もない中年男を犠牲者にすえて、怖い場所は徹底的に怖く描く。

 昔の忍者たちをもじったネーミングや、講談をもじった小見出しが、妙にしっくりハマるのは、戦後の「現代」が戦国時代にそっくりだからだろう。生き馬の目を抜く闇取引の世界で、クールで残忍な若者たちが虚々実々の駆け引きを展開する。しかも各々の組織で、はぐれ狼たちが独自の動きを見せる。面白くならないワケがない。

 天草次郎と対決するサルトル・サスケが、女スパイと恋に落ちてからの怒涛の展開は、ピカレスクのはずがドミノゲームのように、パタパタとヒーローものへと塗り替わっていく。まさに大団円。そのお手並みたるや、もう読んでみるしか実感する手立てはない。

 
(七北数人)  
 
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