作品名 | 投手(ピッチャー)殺人事件 |
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発表年月日 | 1950/4/10~7/1 |
ジャンル | 推理小説 |
内容・備考 | 安吾3作めの推理小説。これも犯人当て懸賞をつけて読者に挑戦した。 懸賞金額は「不連続殺人事件」が1万円、「復員殺人事件」が3万円だったが、本作は破格の10万円である。三大懸賞推理、と銘打ちたいところだが、10万もかけた割にコレはチョット、答えが簡単すぎるんじゃないかと心配になってしまう。 短篇なのでそれほど複雑な構成にはならないし、容疑者も4人程度なので、「不連続」で犯人当てを諦めてしまった読者も、コレなら当たる可能性はかなり高い。ゲームとして挑戦されんことをオススメする。 推理以外の部分でも読みどころは多い。名ピッチャー獲得のために暗躍するスカウトたちの、あの手この手のカケヒキがまず面白い。特に女スカウトの獰猛な肉体交渉には舌を巻く。こういう女傑を登場させるところが安吾らしい。 スカウト話の裏には、恋人の映画女優とそのパトロンとの金銭問題がからんでいて、芸能スクープを狙う記者たちも張り込みや尾行に精を出す。殺人現場に残されたタバコの吸殻は何を意味するのか――? 余談ながら、タバコ好きの人ならすぐに気づかれると思うが、登場人物や球団名、オーナー会社名などすべて、タバコをもじった名前になっている。朝日映画社がラッキーストライク軍をもち、専売新聞がネービーカット軍をもつ、という具合。それもあって「不連続」「復員」の名探偵巨勢博士は本作には登場せず、代わりに居古井警部が登場する。「いこい」も年輩の方には懐かしい銘柄だろう。 作者の遊び心がたのしく、その分、名前を考えるのに相当な時間がかかったと思われる。大好きなタバコを吹かしながら、タバコの銘柄名をああでもないこうでもないとひねくり回し、アッと思いついてニンマリ、安吾の嬉しそうな顔が目に浮かぶ。 (七北数人) |
掲載書誌名 |
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