作品名 | 血を見る真珠〔明治開化 安吾捕物6〕 |
---|---|
発表年月日 | 1951/3 |
ジャンル | 推理小説 歴史 |
内容・備考 | 明治20年前後を舞台に、勝海舟と名探偵結城新十郎との推理比べが楽しめる「明治開化 安吾捕物」の第6回。第5回の「万引家族」などと並ぶシリーズ中の傑作といえる。 安吾自身、「五回目ぐらいから、新しい型を自得するところがあった」と述べている(「道頓堀罷り通る」)。捕物帳の形式でなら「推理の要素と小説の要素を同時にとり入れ」た新しいスタイルの「短篇探偵小説」が書ける、これは西洋にもなかったものだと意欲的に取り組んでいた。 ボルネオ沖の人跡未踏のサンゴ礁で、偶然の事故から、そこに巨大な真珠が大量に見つかる。後日あらためて密漁に向かった船乗りたちには、いくつもの懸念があった。採れた真珠の分配問題、女の乗組員2人への抑えがたい肉欲、インチキ賭博への誘惑……。 南国のむせかえるような熱気、アーリア人や白人の女たちのエキゾチックな色香を回想するシーンなど、少し秘境ロマンの趣もある。そんな幻想的な秘境で、海女2人のはちきれんばかりの肉体が男たちの現実をゆさぶり、めまいを起こさせる。 飲む打つ買う、どれにものめり込んでしまう荒くれ男たちばかりだが、各人の個性はきっちり描き分けられている。性欲と物欲、正義感と悪だくみとがさまざまに交錯し、互いに駆け引きしたり、集団の勢いに染まって雷同したり、制御しきれず暴発したりする。ウラのある会話も、突発的な行動も、全部がリアルで面白い。 宴のあと、2つの殺人が起こり、白と黒の最大の真珠が消失する。 事件から3年余り後、新十郎と海舟の登場となる。まずは又聞きによる海舟の推理があり、例によって少しズレてはいるが、これが十分読者へのヒントになっている。 「文学」の要素もふんだんに入れ込んだ結果として、各人の心理や思考の流れもあちこちに書かれているから、そのぶん推理しやすい。ただし、短いわりに容疑者の数が多いので、2つの殺人の犯人と真珠の行方とを全部当てるのは、かなり難しいだろう。 新十郎と海舟以外のいつもの愉快な仲間たちは、ほとんど出てこない。特に、ヒロイン役の梨江など、喋ったのは第2話までで、名前が出るのもこの第6話が最後となった。推理と人間ドラマを同時に盛り込んだ贅沢な短篇には、内輪のやりとりなど不要になったのだ。 (七北数人) |
掲載書誌名 |
|