作品名 | 愚妖〔明治開化 安吾捕物12〕 |
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発表年月日 | 1951/10 |
ジャンル | 推理小説 歴史 |
内容・備考 | 捕物帖第12話は、前・後篇に分けて発表されたファルス色の強い怪作。「石の下」と同様、2回分あわせても他の話と長さはそれほど変わらない。 前の第11話では「どうも、筋が暗い」「再考三考の要アリ」と日記に記し、構想に難渋したようだが、本話ではその反動か、ワクにとらわれず楽しんで書いた感じがある。 小田原から下曽我、丹沢にかけての山中が主な舞台。前話に引きつづき作者の語るマクラがあり、下山事件を思わせる初の鉄道自殺を偽装したバラバラ殺人や、当時は生活反応や指紋などの科学捜査ができなかったことなど、軽妙な語り口で楽しく時代背景が説明され、気がつくと本篇が始まっている構成も絶妙だ。 殺人事件が2件連続して起こり、殺され方が非常にグロテスクなところなど、怪奇ムードを一つの基調にしたこのシリーズの本道に帰った感もある。 出てくる人間がみな、ひと癖もふた癖もあり、かなりネジが狂っている。彼らのあだ名がまた、ナガレ目(クサレ目)、ガマ六、雨坊主など奇態な容姿を表していて面白い。 なかでも、安吾作品によく登場するムラの怪力女、オタツの怪物的なキャラクターが秀逸で、怒ると「全身が無限にふくれて、とどまるところがないように見えた」という。ずる賢いところもあるが、亭主のカモ七が崖上から肥(コエ)オケを落とされたら、落としたナガレ目に何度でも仕返しに石を落とし続ける粘着質で愚直な単純さももっている。 一度はオタツに言い寄って断られたというナガレ目は「オタツにもクサレ目をうつしてやろうとオタツの通りかかるのを隠れて狙っていたが、オタツに組み伏せられてシマ蛇で手足とクビをしばられて」といった因縁などを、延々と喋りつづけるカモ七も可笑しい。 犯人はカンタンにわかりそうで、何重にもヒネリがある。この話に限っては構成そのものにヒッカケがあるので、その妙手を語れないのがもどかしい。 捜査は、前話で発案されたのと同じスタイルで、地元駐在の菅谷巡査による素直で丹念な聞き込みが中心になる。新十郎のアドバイスを受けて、順々に事件の核心に迫っていく菅谷のキャラクターも、他がスゴイので際立って清新に映る。 (七北数人) |
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