作品

作品名 家族は六人・目一ツ半〔明治開化 安吾捕物16〕
発表年月日 1952年4月
ジャンル 推理小説 歴史
内容・備考  実生活での波乱と相まって、やや迷走気味の回もあった捕物連載だが、桐生へ転居する直前に執筆された第16話は、ファルスの楽しさをふんだんに盛り込んで、本来の「安吾捕物」らしいウェルメイドな本格推理に仕上がった。
 花廼屋も虎之介もよく喋るし、懐かしの古田巡査も登場、海舟も昔ながらの推理ハズシ役という安心の展開。久しぶりに原点に戻ってみたら、以前のように過去の因果をテンコ盛りにすることもなくリラックスした感じになり、会話のテンポも小気味よい。
 舞台は人形町のアンマ師たちの家。客として、桐生の隣町である足利の織物商人も登場する。
 アンマ師の家に6人が住み、両眼とも見える者は1人もいない。みんなが婿になりたがっている養女のお志乃だけ片方の眼が見える。遣り手ババアのオカネも片方だけだが、ぼんやりしか見えない。それで「目一ツ半」というワケ。
 皆が皆、無頼な感じで、ああ言えばこう言う、毒舌がポンポン飛び交う、彼ら一家のやさぐれた会話だけでも非常に面白い。
「ゲジゲジに頭を下げてまで、ウスノロをムコにもらいたかアねえヤ」と吠えるケチンボーのオカネ。大飯と早飯が物凄い弁内。口が臭くて石頭だが異常にカンのいい角平。若くて要領よく世渡りする稲吉。3人の旦那をうまいこと転がしながら若いチャラ男とアイビキしている志乃。みんなキャラが立っている。
 そんな中、オカネが絞殺され、彼女が縁の下に隠していたヘソクリが盗まれる。新十郎が現場を見、各人の証言をとって、徐々に犯人をしぼっていく。
 推理のポイントとしては、結構オーソドックスなアリバイ崩しがメインで、あちこちにミスリードを誘う横道エピソードが仕込んである。崩すのは容易ではないが、いちばん怪しいアリバイはどれか、消去法で行けば解けるかもしれない。それでもやっぱり、ミスリードされてしまうんじゃないかなと、ほくそ笑む安吾の顔が目に浮かぶ。
                      (七北数人)
掲載書誌名
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