作品名 | 南京虫殺人事件 |
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発表年月日 | 1953/4/1 |
ジャンル | 推理小説 |
内容・備考 | 安吾推理短篇の新展開を告げる一作。 『不連続殺人事件』を書いていた頃の安吾は、本格推理を短篇で書くのは難しいと語っていたが、『明治開化 安吾捕物』で推理小説と人間ドラマの融合に成功し、その最終話「トンビ男」では時代色も消して、現代モノ推理短篇への新しい道をみずから切り開いた。 翌年、推理小説とは銘打っていない「犯人」「都会の中の孤島」で、安吾は新機軸ミステリーの執筆に自信を深めたと思われる。次に書かれた本作は堂々「殺人事件」と打ち出し、以後毎月のように推理短篇を書いていくことになる。 タイトルにある「南京虫」とは、あの忌み嫌われる害虫のことではなく、側面に金をあしらった女性用小型腕時計の俗称らしい。日本国語大辞典には、用例として本作の次の箇所が引用されている。 「金の腕時計だわ。婦人用の南京虫。男が南京虫を腕にまくかしら?」 最初の事件の犯人が落とした物がコレで、この小さな疑問が重要なカギになる。 事件といっても、波川巡査と百合子婦警の親子コンビが、怪しいヤツを追っかけていったら反撃されてブチのめされた、というお粗末な事件だった。このように探偵役としては少し頼りないけれど、まっすぐで純粋、力押しにグイグイ事件に迫っていく波川親子が爽やかで、この二人が犯人たちに翻弄される様をすぐそばで見ているように話は進む。 親子が動けば動くほど謎が深まる。裏には巨大密輸組織の女ボス「ミス南京」が関わっているらしいとわかってくる。 こういう設定だから、謎解きよりも巻き込まれ型サスペンスの要素が強い。 「絶世の美女」と謳われるミス南京と、敵からも「まア、可愛いいお巡りさんだこと」と可愛がられる百合子婦警。この二人の不思議と心の通いあう会話がエレガントで楽しい。 本作は1990年にテレビ東京系列「月曜・女のサスペンス」枠で1時間ドラマになった。タイトルは「香港~東京 復讐の誓い」で、秋野暢子、白都真理、石橋蓮司らが出演した。 (七北数人) |
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