作品

作品名 密室大犯罪〔明治開化 安吾捕物2〕
発表年月日 1950/11
ジャンル 推理小説 歴史
内容・備考  物語として面白く、謎ときゲームとしても楽しめる、それを短篇でやるには捕物帖がうってつけと考えて書き始められた推理連作の第2話。
 ハイカラな前作から一転、江戸趣味の色合いが濃い。人形町の小間物屋で、出世欲と色欲がからんだ複雑な人間模様が、凶悪な犯罪をひき起こす。殺されたのは店の主人、藤兵衛。土蔵の二階で、部屋には内側からカケガネが下りていた。
 大仰なタイトルが出てくるゆえんだが、けっこう早い時点で「密室」とは呼べない部屋だったと判明する。女中がちょっと引いて開かなかったから鍵がかかっていたに決まっている、と証言しただけの密室だ。しかも、針金1本あれば誰でも外から掛けられる、ぐすぐすのカケガネ。だから、現場を見た巡査や探偵たちも、ほとんど「密室」を謎のタネにしていない。このタイトルは、読者へのアピールを優先した編集者の勇み足か。
 登場する人間の数が多く、個々の訊問に沿って話が進むので、物語よりも犯人当てゲームのほうに重点が置かれた作品といえる。そうではあるのだが、明治の時代背景が、独特の皮肉な「物語」を生み出している。
 藤兵衛の店では「利発で愛想のよい美童」だけを雇い、お得意先の花柳界や奥様方のお邸を回らせると、気に入られて売上が伸びる、といった業界の裏事情が知れて面白い。
 また、そういうシステムゆえに人間関係にホコロビが生じたり、実直な者ほどハメられて損をしたりすることも多い。よかれと思ってしたことが裏腹に展開するむなしさ――。
 当時、東京で最大の人出だったという水天宮の縁日が犯行の日に選ばれるのだが、この人気の縁日に、店の若い者たちが遊びに行けるようにと、当番交代制で勤務させていた藤兵衛の温かな人柄も見えてくる。
 この温情がまた、仇になる。縁日が犯罪を構成する重要な条件になるのだ。
 新十郎も海舟も存分に推理を披露するほか、虎之介、花廼屋、お梨江らいつものメンバーによる対抗心まるだしの掛け合いも楽しい。本話も初版本には収録されなかったが、没後の『安吾捕物帖』セレクト本では、定番の収録作となっている。
                      (七北数人)
掲載書誌名
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