作品

作品名 残酷な遊戯
発表年月日 不明
ジャンル 純文学・文芸一般
内容・備考  今まで誰もその存在を知らなかった戦前の未発表小説。
 安吾の直筆原稿41枚を、2020年秋、浅子逸男氏が古書店から購入して発見された。戦後の新聞連載小説「花妖」の原型となるもので、2021年2月17日、春陽堂書店刊『残酷な遊戯・花妖』への収録が初公開となった。原稿に作品名は付いていないが、本書刊行に際して本文に出てくる語句などから「残酷な遊戯」と題された。
 執筆時期は1939~40年頃で、「花妖」より6、7年さかのぼる。ヒロイン名は「花妖」と同じ「雪子」。幻の中篇「浅間雪子」(1933)や「麓〔戯曲〕」(1934)から続くキー・ネームである。
 雪子の情熱的な恋情を愚弄した末に、妹の千鶴子と結婚してしまった青山に対して、雪子は「残酷な遊戯」としての復讐を開始する。アンニュイな気配をまとう女友達信代をオトリに、綿密な復讐計画を企てるのだ。ここまでの設定は「花妖」とそっくりである。
 その後の展開はかなり異なり、「花妖」は雪子が男を惑わす魔性――「花の妖かし」になっていくのはこれから、というところで終わってしまう。
 本作も未完なので、結末に至る経緯は不明だが、妹は雪子をピストルで射殺してしまうことが冒頭で明かされている。サスペンスの仕込みは十分だ。雪子の復讐を手伝う大立者が現れたり、エンターテインメントの面白さも盛り込まれて読者を飽きさせない。
 語り手の書生が雪子のためなら何でもすると宣言するなど、残酷な聖女を崇めるシモベ的人物を設定することで、聖女の美しさと怖さが際立って映る。後の「桜の森の満開の下」や「夜長姫と耳男」にもつながる、安吾文学の原風景といえる。
「紫大納言」の『炉辺夜話集』収録版や「波子」など、1941年頃の安吾作品に特徴的な、異常に読点の多い文体が本作でも選ばれている。息切れしたような文章で、情熱的な「火」の思いを語る。これと同じ文体は、やはり「花妖」や「恋をしに行く」など戦後の一時期、決然として自分の意志を貫こうとする「火」の女を描くために使われる。
 今後、安吾文学の系譜を語るのに欠かせない、重要な作品となることは間違いない。
                      (七北数人)
掲載書誌名
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