作品

作品名 魔教の怪〔明治開化 安吾捕物3〕
発表年月日 Dec-50
ジャンル 推理小説 歴史
内容・備考  明治20年前後を物語の舞台とする捕物シリーズ第3話。
 第1話は豪壮な洋館での仮装舞踏会をバタ臭く描き、第2話では一転して、江戸の風俗をのこす下町でのこぢんまりとした事件を扱った。振れ幅は大きく、メイン・キャラクターの性格もまだ一定しなかった。
 第3話の本作では、またガラリと方向が変わって、時代背景や風俗を描くことよりも、事件の異常性や怪奇性を打ち出すことに力を注いでいる。
 カケコミ教と呼ばれる邪教集団の周辺で起こる、残虐でおどろおどろしい連続殺人事件。教団内ではダメ信徒を狼にかみ殺させる(と幻覚させる)神事「ヤミヨセ」があり、猛犬のグレートデンを飼っていた。
 安吾はかねてより「ドイルは捕物帖の祖」と述べていたが、本話ではそのまま、ドイルの「バスカヴィル家の犬」を思い起こさせるように書いている。
 オウム真理教そっくりの洗脳テクニックで、腹話術やメスメリズム(催眠術)を駆使して信徒の金をむしり取っていくカケコミ教の存在自体が恐ろしい。
「無一物になるにしたがって神に近づくと云われ、信心の深さによって幾つかの階級があり、一段ごとに荘厳厳格な儀式と許しを経て進むのである」
 教団には美貌の教祖「別天王」のほかに、隠し神の「快天王」もいるとされるが、誰も姿を見た者はない。政治家世良田と怪僧妙心という最高幹部の二派対立も、複雑に事件に関係しているようだ。
 第1、2話と同様、後半は証人訊問で話が進んでいく。潜入スパイによる証言や、証人たちの語りから事件の背景を想像していく必要があり、しかも短いわりに登場人物が多いため、スラスラと読み進めるのは難しい。
 ヒロイン役のお梨江は登場せず、花廼屋も顔見せだけに終わる。
 試行錯誤中だったと安吾が言う時期の作だが、シリーズ全体に怪奇ムードを盛り込んだ「安吾捕物」の、色合いを決定した力作といえる。
                      (七北数人)
掲載書誌名
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