作品名 | 幻の塔〔明治開化 安吾捕物13〕 |
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発表年月日 | Dec-51 |
ジャンル | 推理小説 歴史 |
内容・備考 | 中学時代の安吾が憧れた馬賊の話がからむ、ロマンの香り漂う第13話。 「1951年日記ノート」(全集第16巻所収)に「捕物は明るい筋でないといけない」と自戒をこめて記した翌月から、ファルス色の強い第12話「愚妖」を書いたが、本話もユーモアたっぷりでカラッと明るい。殺人事件のウラに、冒険活劇ロマンの匂いがぷんぷん香る。 東京に道場を開いている島田幾之進と、福助に似た息子の三次郎、その妹のサチコの三人とも実戦的な武術の達人で、他の道場の師範代程度だとサチコの杖(じょう)で一ひねりにされてしまう。そこへ元兇状持ちのベク助が潜入してくる、この辺までの人物設定は、のちの「女剣士」をほうふつとさせる。 彼らのワザはほとんど書かれてないが、安吾はちょうど杖術や空手の達人らと座談会をしたばかりで、じかに聞いたその武術の物凄さが作中でも興味深く説明されている。 さらに、島田はかつて大陸で馬賊の頭目だったという噂があり、金の延べ棒をたくさん隠し持っているともいわれていた。聾唖者を装う道場出入りの者たちや、ベク助に秘密のトンネルを掘らせる強欲の住職一味、さらには大陸関係最大のフィクサー山本定信など悪党たちがあちこちで暗躍する。 背景だけでも冒険小説の要素たっぷりだが、登場人物が皆、身をやつし、隠れ住んで別の人間になりすましているようなところにも、ミステリアスなロマンの香りがある。馬賊の過去をおくびにも出さない島田幾之進、か弱く見えてズバ抜けて強い三次郎やサチコ、決して姿を現さない大立者の山本、仏師になりすます兇状もちベク助などなど。 枚数は非常に短いが、歴史の闇をとおって大陸へと、雄大に、無限に延び広がっていく話なので、読後の印象ではあまり短さを感じない。 犯人当てよりも、黄金は本当にあるのかどうか、が読みどころ。楽しさを主眼としているので、花廼屋と虎之介も第1話のようにそれぞれ見当違いの犯人を推理する。逆に海舟は推理を披露せず、新十郎に貴重なアドバイスをするところも、ひと味ちがう。 (七北数人) |
掲載書誌名 |
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