作品名 | 赤罠〔明治開化 安吾捕物15〕 |
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発表年月日 | 1952年3月 |
ジャンル | 推理小説 歴史 |
内容・備考 | 迷宮入りとなった前作からは見違えるほど、爽やかな解決をみる捕物帖第15話。 舞台は深川木場。花廼屋が為永春水ファンと書かれているので、『春色梅児誉美(ウメゴヨミ)』あたりが当時の風物描写の助けになっているかもしれない。安吾自身、この頃は三千代の実家の向島で、久々にのんびりと正月をおくっていた。 木場の大旦那、不破喜兵衛が還暦の祝いを兼ねて生前葬を行うのだが、趣向を凝らして危険な奇術に挑戦する。喜兵衛の入った棺桶をダビ所に閉じこめて、火をかけるのだ。火炎の中、ダビ所から「現れ出ずるは赤い頭巾にチャンチャンコ。生れかわった喜兵衛である」という段取り。 トビのコマ五郎ら火消人足が大勢待機していたが、喜兵衛は出てこず、棺桶から焼死体を発見。一種の密室殺人とされ、ダビ所を設計し自ら錠をかけたコマ五郎が逮捕される。 コマ五郎は特殊部落の一族の長で、数々の差別を受けてきた身であるが、出身がどうのと全く意に介しない喜兵衛とは非常に仲がよかったという。コマ五郎のセリフは一つ一つ苦みが利いて、男気にあふれている。 新十郎が解いてみせる密室のトリックは、拍子抜けするほどカンタンなものだが、犯人の範囲(?)を見通すのはカンタンではない。 問題はトリックよりも、事件の一部始終を順序正しく、マチガイなく成功させるにはどうすればよいかということ。人間心理や人の動線を緻密に読み解いていく新十郎の解説を聞くと、そうか、そんなことまで考えられていたのか、と唸らされる。 そしてここでも、新十郎たちは事件の真相と犯人とを知りながら、警察には黙して終わる。こう書くと犯人(たち)が誰か、おおよそわかってしまうかもしれないが、法のもとだと悪人だけがイイ目を見るなら、そんな法の手先になる必要はない。常に、心優しき弱者の味方でありたい。それが安吾の信条でもあっただろう。 なお本話では、海舟は名前が出るだけで、登場はしない。 (七北数人) |
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