作品名 | 踊る時計〔明治開化 安吾捕物18〕 |
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発表年月日 | 1952年6月 |
ジャンル | 推理小説 歴史 |
内容・備考 | 「踊る時計〔安吾捕物18〕」 捕物帖第18話は、黄金とダイヤの仏像盗難にからんだ密室殺人事件。 被害者は吝嗇家で皆に嫌われていた時信全作で、結核性関節炎などの症状が進行し寝たきりとなっていた。骨董が趣味で、人を呼ぶときにはオルゴールを鳴らして知らせるという風流心もあったが、それがどう事件と結びついていくかが読みどころ。 捕物以外の小説は長らく書いていなかった安吾が、同月ついに「夜長姫と耳男」を発表、その影響か、各人の心理描写に独特の文学表現が加わっている。 文章を読む楽しさを優先すると、推理小説としては弊害のほうが多くなる。 「外科の先生が患者の片足をノコギリで斬り落すようなタダの静かな顔で人殺しはやらない」と犯人像を推理する看護婦や、何から何までいつもと違う日だったと回想する女中など、犯人ではありえない内面が描かれすぎて、犯人当ての前までに容疑者はほぼ1人か2人に絞られてしまう。 もっとも、本話は犯人当てよりも、犯行のカラクリをあばくのが難しい。あれやこれやの小道具を利用した時限工作のアリバイづくりなど、類例は多々ありそうだが、やはり型にはまらない妙案が仕込まれていて、意表を突かれる。 被害者の姉で大霊道士の邪教を狂信しているオトメのキャラクターなども、ホラー映画によく出てきそうな異様な雰囲気で、物語に色を添えている。 今回、花廼屋は名前も出てこないが、「新十郎一行」とあるからには居たのだろう。逆に、もう登場することのない海舟が、ここでは名前だけ、懐かしむように出てくる。 本話執筆のしばらく前から、連載モノは「安吾捕物」と「安吾史譚」だけで、単発の原稿も非常に少なかった。以前より格段に余裕はできたはずだが、前回と今回の捕物は、やや低調だったように感じられる。 「夜長姫と耳男」の執筆がキッカケとなって、新しい文学への意欲がどんどんふくらんでいたことは想像に難くない。残りの2話で、捕物にも新風が吹き始める。 (七北数人) |
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