作品

作品名 孤独閑談
発表年月日 1943/10/
ジャンル 自伝・回想
内容・備考  「古都」の続篇。エッセイ「探偵の巻」が原形である。
 京都での怪しげな有象無象の生態が描かれた前作「古都」の世界から一転、華やぎと色香のただよう女の世界がひらかれる。
 下宿の娘が家出して、「僕」と助手の三宅君が探索に乗り出すのだが、娘の仲間の不良少女たちは皆、したたかで逞しい。男をだます如きはお手の物、何事にも女のほうがウワテで、「僕」たちは振り回されるだけが役目だ。ニセ手紙にもウカウカだまされる始末。
 娘たちは自分だけは良家の淑女になりすまし、平然と仲間を裏切る悪女ばかり。高貴な美人タイプほどヤリ手だ。安吾はこれを「決定的な孤独な性格」と評し、「生れながらのものを率直に投げだしてゐる身構へ」だと感服する。
 ヒロインの家出娘だけは、こうした仲間うちにあって1人、純真で生一本な生きざまをみせる。相手の男に「身も心も捧げ、一途に信じきり頼りかゝつてゐる」姿を、安吾は八百屋お七になぞらえ、大人の世界にはないことだと驚嘆する。
 娘が選んだ男も印象的だ。「珍らしいほど澄みきつた目」をして、一切の言い訳も策略もない。掃き溜めに鶴、といった趣がある。
 安吾はこの2人が大好きなようで、めいっぱい肩入れしている。感情をこめ過ぎた部分もあり、そのせいで「古都」とちょっとトーンが違う。鬼の養母と家出娘の対決では、思い余って養母のことを感情的に罵倒する文章さえ書くのだ。
 もっとも養母のことも否定はしない。主婦として家にしがみつきながら、動物的な肉体を持てあまし何もかもを呪って生きるその逞しさを「可憐」と思う。
 家を飛び出した清純な恋人たちと、動物的な主婦と、男をだまし仲間を裏切って生きる悪女たちと、3者は画然と切り離されている。そしてそれぞれ同じように、孤絶した懸命な生を、のたうちまわるようにして生きている。
 本作執筆後、安吾は彼女らに促されたように、自伝的作品群に着手する。
                      (七北数人)
掲載書誌名
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