作品

作品名 新カナヅカイの問題
発表年月日 1947/11/1
ジャンル 純文学・文芸一般 社会批評
内容・備考 1946年11月に決定した現代かなづかい、および当用漢字について、1年後、文部省から意見を求められ、これへの回答として書かれたエッセイ。
「僕は新カナヅカイも漢字制限も主旨として当然なことだと思つてをり」という冒頭の一文で、ほぼ意を尽くしている。
 歴史的仮名遣いが学問上重要なことは認めつつ、ただそれを万人が学習する意味はあるのか、ふつうの人の生活に必要か否か、と問う。非常に論理的で説得力がある。
 1946年の決定は、特に新聞や雑誌などが順守すべきものとされたので、新聞連載された安吾の長篇「花妖」など、使えない漢字を含む単語は交ぜ書きにされ、無理やり平仮名に直すので漢字は読み方が間違っていたり、散々な目にあっていた。
 それでも安吾は怒らない。「難しい文字の名詞はカタカナで」書けばよい。「なんとかして、自分の作品が誤読されないやう、又、読みやすいやうにと色々と考へる」
 安吾の文章表記の規準はすべてコレだ。読者に親切であることが一番だった。
 読んで意味がスッと入ることが重要だから、「オメカケ」などは大体カタカナで書く。「妾」だと3とおり以上の読み方があるし、「オメカケ」に同音異義語はない。逆に「破壊」は、カタカナにすると何とおりか漢字が当てはまってしまうので、必ず漢字にする。「空襲」などはカタカナにすると意味が入りにくいので漢字を使う、といった具合。
 安吾自身の好みの問題ももちろんある。「カラクリ」は、絡繰、機巧などの漢字だと人形や機械のイメージが付きまとうが、陰謀的なニュアンスを出したくてカタカナで書く。
 画数が多くても「曠野」とか「欺瞞」とか「跫音」とか、意味が重要なものは漢字にしたし、「レンラク」「オレ」「バクダン」「ニセモノ」などカタカナを好んで使う単語もあった。安吾の歴史小説によく出てくる「レンラク」には、漢字が表す以上の、裏で通じ合ってる、みたいな微妙なニュアンスがこめられている。
 とにかく完全な実質主義なので、表記にも大きなコダワリはなかった。見せかけだけのために敷居を高くする必要などない、という姿勢で終始一貫していた。
 仮名遣いのほうも、1949年10~11月を境に、安吾はスッパリと新仮名に切り換えた。
                      (七北数人)
掲載書誌名
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